地方大学が検討すべき5つの方針とは?現状の問題点や取り組み事例も

「地方大学で思うように学生を集められず悩んでいる」「今後地方大学はどんな方向性で取り組んでいけばよいか知りたい」

上記のような悩みを抱えている広報担当者の方も多いのではないでしょうか。

都市部への18歳人口の流出は年々進んでおり、地方大学は厳しい局面に立たされています。このような状況を打開するには、学生や時代のニーズにあわせて新たな方針を取り入れる必要があるでしょう。

この記事では地方大学が直面している問題や、取り入れるべき5つの方針について解説します。最後まで読めば他大学の成功事例も分かりますので、ぜひご覧ください。

目次

地方大学が直面している問題

地方大学は主に次の3つの問題に直面しています。文部科学省の公表した資料をもとに解説していきますので、詳しく見ていきましょう。

引用:文部科学省 魅力ある地方大学の実現に向けて

①18歳人口の減少率

文部科学省の試算結果によると、18歳人口は将来的に大幅に減少すると予想されています。具体的には、全国規模で見ると2020年の約117万人から2040年には約88万人に。約24.4%も減少すると推計されています。

さらに「東京圏」と「その他の地域」でも結果が異なります。東京圏の減少率が約15.3%に対し、その他の地域は約27.6%。地方は都市部に比べて減少割合が約12.3%も大きくなると予想されています。

つまり、今後ますます高校生の獲得が困難になっていくといえるでしょう。

②大学進学時の流出率

次に大学進学時の流入率・流出率を見てみましょう。文部科学省の統計結果をもとに、「特に流入率が高いまたは低い」各都道府県の値を以下の表にまとめました。

上記の通り、東京都や京都府は70%以上と流入率が非常に高くなっています。その一方で、流出率は特に香川・三重・茨城の3県が大きいです。

大学進学に伴って東京など都市部に流入する割合が高いですが、ほとんどの地方では人材が流出している状態です。「将来的に就業機会の多そうな都市部に移住したい」と考えている若者が増加していることが分かります。

③産業別就業者の構成割合の偏り

さらに産業別の就業者の構成割合も偏りがあります。東京都では「情報通信業」に就いている人口の割合が大きいですが、その他地域では「農林漁業」や「製造業」が多くを占めているのです。

つまり地方ではICTの普及や進展を支えるICT産業の発展が、大都市圏よりも低いといえます。高校生のなりたい職業No.1が「エンジニア・プログラマー」である点から見ても、東京へ流出してしまうのは自然な流れといえるでしょう。

引用:学研教育総合研究所 将来つきたい職業

地方大学が取り入れるべき5つの方針

地方大学はその地域ならではの人材を育成・定着させ、地域の経済や社会を支える基盤となる必要があります。特に次のような点に注目し、活性化させていくことが重要です。

・地域の特性やニーズを踏まえた人材育成

・イノベーションの創出に取り組む地方大学の機能を強化

そのために、地方大学が今後取り入れるべき方針を解説します。

①オンライン教育サービスの提供

オンライン授業により、学生や教員が時間や場所の制約から解放されます。その結果、高等教育の機会の多様化や高度化が加速される可能性が高まるでしょう。

またデジタル化されることで、学生からの質問や試験結果などをもとに、能力に見合った授業内容へ改善しやすくなります。個々の能力をより伸ばせる環境がある大学になれば、進学率の向上も期待できるでしょう。

また近年は社会人の在宅勤務の機会が増加していることに伴い、社会人のオンライン学習のニーズも高まっています。リカレント教育プログラムも充実させることで、社会人の入学希望者を増やすことにも繋がります。

②STEAM人材の育成

STEAMとは「Science」「Technology」「Engineering」「Arts」「Mathematics」の頭文字を組み合わせた言葉です。科学・技術・工学・数学領域の最先端技術に、芸術・デザイン・人文の視点を融合させて新しいイノベーションを生み出し、人間の生活をより豊かにするというコンセプトで作られました。

AI時代でも商品やサービスを利用するのは人間です。そのため「人の役に立ちたい」というマインドを持った上で、型にはまらない発想で積極的に前進できる人材が求められています。そのような人材の育成に取り組んでいる例を見てみましょう。

事例:公立はこだて未来大学

「システム情報学部」としてSTEAM人材を育成する学部を設置。情報技術やデザイン、アート、コミュニケーション、認知心理学、人工知能などの多様なジャンルを融合した学部です。

例えば情報アーキテクチャ学科では、社会基盤となる高度な情報システムを構築する技法や、人に役立つ情報環境を創り出していく方法を学べます。人間とコンピュータの新しい関係を切り拓ける人材を育成しているのです。

実際に学生が音知覚装置「Ontenna」を創り出し、2019年には商品化もされています。この装置の開発が認められ、フォーブス誌アジア版でインダストリー&マニュファクチャリング分野の「30歳未満の重要人物」30人の1人に選出されました。

③地域の高校と連携して教育に貢献

地域の高校との連携を進めることで、地方大学が地域の課題を見直すきっかけを作れます。大学の魅力を今以上にアピールする機会も得られるでしょう。

高校生にとっても、早くから大学のハイレベルな講義を体験できるのはメリットです。学部や学科への理解を深められるので、志望学部を決める際にも役立つでしょう。大学側もその分野に関心が強く、やる気のある学生を早期に集められるという利点があります。

事例:大阪大学

大阪大学では大阪府教育委員会との連携協定を締結しており、教育委員会を通した高大連携を行っています。

世界最先端の科学技術に興味のある高校生を募集し、技術体験ツアーや少人数のディスカッション、留学生との異文化交流体験などを実施。課題探求能力や論理的思考力、プレゼンテーション能力など、科学の世界で活躍できる人材を育成しています。

④データサイエンスやAI教育の推進

内閣府は未来の超スマート社会「Society5.0」の実現に向け、「文理を問わずすべての大学・高専生がAIリテラシー教育を習得するとともに、自らの専門分野への数理・データサイエンス・AIの応用基礎力を習得する」ことを目標に掲げています。

今後AIやビッグデータ、IoTの需要がますます高まることを考えると、専用の教育プログラムを考案することが求められるでしょう。

事例:久留米工業大学

文科省の「数理・データサイエンス・AI教育プログラム(リテラシーレベル)」として認定されたAI教育プログラムを提供しています。特徴的なのは地域密着型の内容になっている点です。

例えば「顔認証を用いて美容室で自動受付する」「顧客に適したヘアスタイルを提案する」という美容室経営者からの課題に対し、AI技術を用いて企画立案・開発・実装まで行います。

AIの知識と応用力を修得するだけでなく、AI活用演習やインターンシップを通してAI活用の現場に触れ、地域課題の解決を目指しているのです。

⑤地方大学間で人材やリソースを共有

18歳人口の減少やグローバル化の進展など、大学を取り巻く環境は大きく変化しています。

多様化する学生のニーズや社会の要望に応えていくには、各大学が個々で取り組みつつ、強みや特色を活かすことが重要な一方で、です。そのために他の大学や地方公共団体、産業界などと連携して活動していくことが求められます。

人材やリソースを共有することで、次のようなメリットが得られるでしょう。

・各大学が弱点とする分野を相互補完できる

・地域が求める人材を連携して育成できる

・教育研究資源を有効活用することで、きめ細やかな指導や少人数教育を実施できる

地方大学の取り組み事例を紹介

上記で紹介した方針を取り入れている地方大学の事例を2つご紹介します。

①会津大学:創業意識の高い人材の育成に注力

会津大学は建学の基本理念として「地域産業・文化への貢献」を掲げています。実際にベンチャー体験工房「会津IT日新館」を設立。各分野で活躍している外部講師を招き、実践的なビジネス知識を身につけるだけでなくベンチャー精神も育てています。

また地域や企業が抱える課題やニーズを実際に把握し、学生が自らの意思でテーマを設定して新製品やサービスの研究・開発を行っています。

上記のような取り組みの結果、30社以上の大学発ベンチャーが誕生。大学周辺にオフィスが立地しているので、企業側は優秀な技術者を確保できます。2014年には「学生1000人当たりの大学発ベンチャー数ランキング」で日本一に輝きました。

②鳥取看護大学:地域に貢献する取り組みで県外流出を抑制

鳥取看護大学は「地元に一人でも多くの若い優秀な看護師を排出する」ために作られた大学です。鳥取県の抱える雇用や福祉の課題解決に向け、県内の計5校の大学・短大と自治体・産業界で連携。「とっとりプラットフォーム5+α」を設立しました。大学を設置する法人内に事務局があり、鳥取看護大学が中心的役割を果たしています。

また地域住民が気軽に健康相談できる「まちの保健室」を開設。身体測定や骨密度測定も行える施設で、大学のリソースを活かして住民のニーズに対応しています。

上記のような取り組みの結果、2021年3月には卒業生の鳥取県内への就職が85%に上りました。「地域に根付いた高等教育機関」として力を発揮している好例といえるでしょう。

まとめ

今回は地方大学が検討すべき方針や、実際の事例について解説してきました。

18歳人口の減少や大学進学時の流出率の増加など、現在の日本は地方大学に厳しい現実があります。このような問題を乗り越えて入学者数を増やすには、次のような方針を取り入れていく必要があるでしょう。

・オンライン教育サービスを提供し、進学率を向上させる

・AI時代に対応できるSTEAM人材を育成する

・地域の高校と連携して大学の魅力を伝える

・データサイエンスやAIの教育プログラムを考案する

・他の地方大学や地方公共団体と連携し、人材やリソースを共有する

弊社では、地方大学の入試広報やブランディング戦略に役立つノウハウを提供しています。ぜひご興味があればお問い合わせください。

地方大学が検討すべき5つの方針とは

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